2021年の本屋大賞は、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』が大賞に輝きました。
この年のノミネート作品全体を振り返って強く感じるのは、「誰にも届かない声を聴き、そっと手を差し伸べるような10冊」が集まっていたということです。世界が大きな不安と閉塞感に包まれていた時期だからこそ、登場人物たちがそれぞれの孤独や生きづらさと向き合い、ささやかな繋がりの中に救いを見出していく物語が、多くの書店員さんの心を揺さぶりました。
芥川賞を受賞した話題作から、心温まる連作短編集、新世代の瑞々しい青春小説、五感を刺激するファンタジーまで。ジャンルは多彩でありながら、どれも「一人ではない」という確かな温もりをくれる名作ばかり。静かな夜、誰かのぬくもりを求めたくなったときにページをめくりたくなるラインナップです。
10作品の魅力を、ネタバレなしでご紹介します。
2021年 本屋大賞ノミネート作品(五十音順)
1. 『犬がいた季節』 伊吹有喜(双葉社) ★3位
ある高校に迷い込み、12年間を過ごした白い犬「コーシロー」の視点から、変わりゆく時代と生徒たちの青春を見つめた連作短編集。誰もが通り過ぎてきたあの頃の眩しさと切なさが、犬の純粋な眼差しを通じて瑞々しく蘇ります。忘れていた大切な記憶を呼び覚ましてくれる、涙が溢れる名作です。
2. 『お探し物は図書室まで』 青山美智子(ポプラ社) ★2位
仕事や人生に行き詰まった人々がふらりと訪れる、小さな図書室。一風変わった司書さんが選ぶ意外な「本のリスト」と、おまけの「羊毛フェルト」が、彼らの明日を少しずつ変えていきます。青山美智子さんらしい優しい言葉が、迷える現代人の背中をそっと押してくれる温かな物語です。
3. 『オルタネート』 加藤シゲアキ(新潮社) ★8位
高校生限定のSNS「オルタネート」が必須となった世界で、そのシステムに翻弄されながらも、恋や友情、自分の生き方を模索する3人の若者たちの青春群像劇。現代の若者たちのリアルな葛藤と成長を、瑞々しく疾走感のある文章で鮮やかに描き切った力作です。
4. 『逆ソクラテス』 伊坂幸太郎(集英社) ★4位
「敵は、先入観だ」——小学校を舞台に、生意気な子供たちが大人の固定観念や理不尽をあざやかにひっくり返していく、爽快な短編集。伊坂幸太郎さんならではの軽快なテンポと伏線回収の心地よさは健在。読むだけで世界の見方が少し変わり、前を向く勇気がもらえる作品です。
5. 『52ヘルツのクジラたち』 町田そのこ(中央公論新社) ★大賞受賞
他のクジラには聞こえない高い周波数で鳴く、世界で一番孤独なクジラ。家族から搾取され傷ついた女性と、虐待を受け「ムシ」と呼ばれていた少年が出会い、魂を通わせていく物語です。あまりにも切なく苦しい現実の先に、かすかな希望の光が射す。読む者の心を震わせる魂の物語です。
6. 『この本を盗む者は』 深緑野分(KADOKAWA) ★10位
読書嫌いの少女が、泥棒によって「本の呪い」にかけられた街を救うため、様々な物語の世界へと飛び込んでいくファンタジーミステリー。書物の世界が現実を侵食していく描写の美しさと、本への深い愛に溢れた仕掛けの数々。読書の秋にじっくりと没頭したくなる、本好きのための物語です。
7. 『自転しながら公転する』 山本文緒(新潮社) ★5位
30代を迎え、結婚、仕事、親の介護など、人生の選択に直面して揺れ動く女性のリアルな日常を描いた人間ドラマ。誰もが抱く「このままでいいのだろうか」という不安を代弁するように、地に足のついた筆致で綴られます。山本文緒さんの鋭くも温かい眼差しが、等身大の私たちにそっと寄り添ってくれます。
8. 『八月の銀の雪』 伊与原新(新潮社) ★6位
理系出身の著者だからこそ描ける、地球の奥深くや科学の神秘をベースにした連作短編集。不器用で孤独を抱えた登場人物たちが、自然の織り成す美しい現象や小さな生き物たちの営みに触れ、凝り固まった心をゆっくりとほぐされていきます。知的好奇心を満たしつつ、深く心を癒やしてくれる一冊です。
9. 『推し、燃ゆ』 宇佐見りん(河出書房新社) ★9位
芥川賞を受賞し、社会現象となった話題作。「推し」を生きる糧とし、自分の背骨としていた女子高生が、その推しがファンを殴って炎上したことで、日常が少しずつ崩壊していく様を描きます。圧倒的な文章力と切実さで、「誰かを推す」という現代的な救いと痛みをリアルに抉り出した名作です。
10. 『滅びの前のシャングリラ』 凪良ゆう(中央公論新社) ★7位
「ひと月後に小惑星が衝突し、地球が滅びる」——そんな極限状態を突きつけられた世界で、不器用な人々が残された時間をどう生きるかを描いた物語。世界の終わりに本当に大切なものは何か、誰の手を握りたいかを問いかける、凪良ゆうさんらしい愛と生への祈りに満ちた一作です。
いまの気分で選ぶ、4つの入り口
- 孤独な心に深く寄り添い、確かな救いを感じたい → 『52ヘルツのクジラたち』『滅びの前のシャングリラ』
- 日常の疲れを癒やし、じんわりと元気を補給したい → 『お探し物は図書室まで』『犬がいた季節』『八月の銀の雪』
- 瑞々しい青春のエネルギー、爽快感を味わいたい → 『逆ソクラテス』『オルタネート』
- 現代のリアルな空気感や、物語の迷宮に浸りたい → 『推し、燃ゆ』『自転しながら公転する』『この本を盗む者は』
最後に
2021年の本屋大賞作品は、どれも私たちが日々抱える小さな生きづらさをそっとすくい上げ、肯定してくれるような優しさと推進力を持っています。
今は電子書籍を使えば、ベッドに入ったまま、数秒後には新しい物語の1ページ目を開くことができる時代です。今夜、スマホの中に小さな贅沢を忍ばせてみませんか。
「歴代の本屋大賞作品をのんびり眺めてみたい」「次の一冊を直感で選びたい」と思ったときは、名作だけをシンプルに並べた【そらのしたの図書室】をふらりと覗いてみてください。あなたの今の気分にぴったりな一冊が、きっと静かに待っています。


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